病室とアイアイ

今年の冬、急な病気で2カ月ちょっと入院していました。

限られた病室の中であっても、暮らしの気付きはいろいろとあるものです。

8階の南に面する病室は見晴らしも良く、庇のない大きな窓からは暖かな陽射しが室内に降り注いでいました。

おかげで、全館空調された室内は天気がいいと30℃を超える酷暑となり、半袖でも汗をかくほど。

みんな暑がってカーテンを閉め切るものですから、せっかくの眺望も拝むことができません。

私はカーテンの裾を少しまくって洗濯バサミで固定して、陽射しを遮りつつ隙間からの景色を楽しんでいました。

陽当たりの良さ、景色の良さも、それだけでは居心地の良さとイコールにはならないのだ、と身をもって感じた日々でした。

浜松の旧東区にあった「珈琲パーラーアイアイ」が好きでした。

夕方、窓辺の席に差し込む西日と、その日が作る木の陰がとても素敵だったからです。

そんな素敵な喫茶店も、少し前に閉店したかと思うと、すぐに解体されてしまいました。

店主さんのご事情は何も存じ上げませんが、時間を戻すことができるなら、せめて建物だけでも残すことが出来ないものか、東奔西走するところです。

最近の真新しいお店では見られない、職人さんの手仕事を感じる塗壁や、経年で深まった無垢の木の色。今から、あの空間を再現することはきっとできないでしょう。

一般的には重宝される南の窓と、いやがられる西の窓。

それとは真逆のお話でした。

少し前のブログより、設計の岡本曰く。

「仕事以外の日々にも、ふとした感情の動きを設計に取り込めないか考えるのもこの仕事の面白さでもあり、やまいでもあります。」

わたしの病気は無事に落ち着きましたが、この仕事のやまいとは、ずっと寄り添っていきたいものです。

鈴木