名旅館

印象的なタイトルに惹かれ「匠たちの名旅館」という本を読みました。

写真家である稲葉なおと氏が旅館建築を手がけた
平田雅哉氏、吉村順三氏、村野藤吾氏について、建築写真とともに旅館の亭主との会話や建築時のエピソードが綴られています。
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何代にも渡って営業を続け、名旅館と呼ばれるようになった建物は、
亭主や従業員によって愛され、丁寧にメンテナンスされてきたことが伝わってきました。
そこには建築当初の建て主(施主)と建築家(あるいは棟梁)との
信頼関係が根源となっている、と書かれていました。
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この本を読んでから、京都の俵屋旅館に宿泊しました。
300年以上も営業を続ける旅館で、昭和には吉村順三氏が増築、改築を手掛けた建物です。
客室全室に専用庭があり、京都の街中とは思えない静かさ、風情が感じられる部屋でした。
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この旅館は吉村順三氏の建築時に大きく改装しましたが、
その後も定期的に各室が改装され、その時代や外国人宿泊客等に
対応できるよう変化し続けています。
吉村氏も建築当初には技術的に導入できなかった
エレベータのスペースを「将来のために」と確保しています。
そして空調機器や機械室も宿泊客からは見えないように配置しています。

定期的な改装が続けられ、吉村氏が設計した内装部分は殆ど見られなくなったようですが、
数寄屋建築としての美しさは保たれ、吉村さんの意志が守られているように感じられました。

それは、施工を手掛ける工務店が常に同じであることが大きな要因ではないかと思います。


私たちも設計、施工を手掛ける建築会社です。完成後も、設計施工担当者が毎年点検に伺い、
建物に不具合がないかどうか、対話しながら確認しています。
長く愛着をもって暮らして頂くためには、本に書かれていた通り、
建て主と設計士、施工監理者の信頼関係が大切だと思います。
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点検時にお施主様が家や家族との暮らしについて楽しそうに話してくださることが、
設計者としてとても喜ばしいことです。一冊の本と一泊二日の旅行でしたが、
素直に建築を楽しみ、情熱を持ち続けることの大切さを考えるきっかけになりました。
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増田 光

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