「場面づくり」


「建築家として、もっともうれしいときは、建築ができ、そこへひとが入って、いい生活が行われているのを見ることである。
日暮れ時、一軒の家の前を通ったとき、家の中に明るい灯がついて、
一家の楽しそうな生活が感じられるとしたら、
それが建築家にとってはもっともうれしいときなのではあるまいか。」

これは昭和の建築家、巨匠でもある故吉村順三の言葉です。
これほど素晴らしい建築を数多く設計しながらも、温かな眼差しで見つめるその先は、いつも人びとの日常でした。

そして生活の実際の場所の持つ心理への奥深い洞察を通し、日々の暮らしを生き生きと支える住居像を求め、住宅をつくり続けていたことに私は本当に敬慕の念にかられます。

私たちは住宅を設計するとき、一歩間違えばデザインを優先し、家族の生活のイメージが希薄になってしまうことがあります。
しかしそれは絶対にあってはならないことです。
住宅は住宅である以上、そこに住むひとや家族がいて初めて正当に機能します。

そしてその機能は単に生活のための機能だけでなく、心を動かす機能もあると私は思います。よってできることなら、これからその住宅に住むご家族に対し、自分たちが設計し、つくったその家で、最高に楽しく幸せに過ごしてほしいと強く願って設計するべきです。それが私たちが言っている「場面づくり」だと思います。これからも、それぞれのご家族の「場面づくり」に真摯に取り組んでいきたいと思います。

袴田英保