地元の材料を使う
外出自粛で出掛けることが減り、読書の時間が長くなりました。
電子書籍のおかげで書店に足を運ばなくても様々な本が読めるようになり、
携帯電話、タブレット等、異なる端末から同じ本を途中から読むことができ、
便利な世の中だなと、つくづく感じます。
直近では新国立競技場を設計したことでも有名な隈研吾さんの「ひとの住処」を読みました。新国立競技場や日本平夢テラス等、公共建築や商業建築に木材を沢山使用することが印象的ですが、どのような思考、プロセスで設計しているか、隈さんの半生と共に綴られています。
中でも印象的だったのが「最高の木は裏山の木だ」という言葉です。日本は温暖湿潤で全国各地で木材が採れる環境ですが、地元の木を使うことが極めて重要だと述べています。
地球温暖化が問題視されていた2000年頃。地元の木、木材を使って建築しそれを長く大切に使っていくことが、温暖化対策に重要だと科学的に実証されました。
木材は光合成によって空気中の二酸化炭素を取り込み、それを固定化する力がある。地球上の膨大な量の建築を木で作るようになると、かなりの量の二酸化炭素を減らすことができる、というシュミレーション結果が発表されました。
安いからといってロシア、カナダの木材を使用すると、輸送の船や車が二酸化炭素を排出するため元も子もありません。地元の木は温暖化防止という側面をもち、敷地と同じ環境条件で育ったため、出来上がった後も狂いがありません。大工に話を聞くとほぼ全員が口を揃えて「地元の材が良い」と答えます。
隈研吾さんは建築を計画する際に地元の環境を調査、現地の住人や職人と会話し、(木材に限らず)地元で入手できる材料を建築としてどのように表現するか、が設計の着想になるそうです。そうして、そこでしか作れない建築をいくつも手がけています。
現存する最古の建築は7世紀に建てられた法隆寺で、1400年の歴史があります。住宅で1400年というと非現実的ですが、100年以上の住宅は私も改修経験があり、皆さんの地元にも1棟はあるのではないでしょうか。
温暖化防止という観点では木は60年サイクルで計画的に伐採するのが効果的で、60年以上放置された森は、60歳以上の人間と同じで、次第に二酸化炭素を固定化しなくなります。手入れをもせず森を放置すると土は保水しなくなり、
山から流れる水質も悪化し洪水の原因となったり、海の生態系をも崩す危険性もあります。
浜松市には森林組合、庁舎内には林業振興課があり、市をあげて森を守る活動をしています。
日本三大人工美林の1つとされている浜松の天竜杉は、色肌がとても美しく、
天皇即位儀式行った大嘗宮(だいじょうきゅう)や新国立競技場にも使用されています。
住宅を検討する際、木造、鉄骨造、コンクリート造のどれが良いか、悩む方も多いかと思います。それぞれ長所、短所があり一概に「これが良い」とは言えませんが、静岡県西部地区で建てるのでしたら、地元の木材を使用した家が適しているかと私は思います。
増田光